宅建試験において「制限行為能力者制度」は、民法の基本中の基本として毎年のように出題されています。特に、どのような行為が取り消せるのか、どのようなケースでは取り消しができないのかを問う問題が多く見られます。
本記事では、制限行為能力者の各類型とその特徴、法定代理人の役割、そして重要な「取り消し」のルールについて、丁寧に解説していきます。例題も交えていますので、実践力も同時に身につけましょう。


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行為能力とは何か?
「行為能力」とは、自分の意思で有効な法律行為(契約など)をすることができる能力のことです。行為能力が制限されている人を「制限行為能力者」と呼びます。
制限行為能力者は、保護のために一定の法律行為について「取り消し」ができる特例が設けられています。

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制限行為能力者の4類型
1. 未成年者
- 18歳未満の者(2022年民法改正により20歳から18歳に変更)
- 原則として法定代理人(親など)の同意が必要
ただし、次の場合は同意不要:
- 単に権利を得るだけの行為(贈与の受け取りなど)
- 単に義務を免れる行為(借金の免除など)
- 法定代理人の許可を受けた営業に関する行為
2. 成年被後見人
- 精神障害などにより、常に判断能力を欠く状態にある者
- 家庭裁判所による「後見開始の審判」によって決まる
原則としてすべての法律行為を取り消すことができます。
ただし、日用品の購入など、日常生活に関する行為は取り消せません。
3. 被保佐人
- 判断能力が著しく不十分な者
- 家庭裁判所の「保佐開始の審判」が必要
一定の重要な行為には、保佐人の同意が必要。
同意なく行われた行為は取り消し可能です。
例:借金、贈与、保証契約、不動産売買など
4. 被補助人
- 判断能力が不十分な者(被保佐人より軽度)
- 「補助開始の審判」により指定される
同意が必要な行為は個別に指定されます。
補助人の同意が必要な行為を定めた場合、それに反する行為は取り消し可能です。
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法定代理人の役割と代理権の範囲
制限行為能力者が行った法律行為は、原則として法定代理人の「追認(事後同意)」があれば有効になります。
また、法定代理人は原則として、本人に代わって法律行為を行う「代理権」を持っています。ただし、代理できる範囲には制限がある場合もあります。

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取消しの効力と制限
制限行為能力者が行った行為を取り消すと、**最初からなかったこと(無効)**になります。ただし、次のような場合は取消しができません。
- 相手方が制限行為能力を知らなかったとしても取消しは可能
- しかし、制限行為能力者が「能力者のふり」をした場合(詐術)は、原則として取消しできません
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例題で実力チェック!
例題1:未成年者と契約
Q:18歳未満のAは、親の同意なく自転車を購入しました。この契約は?
ア.無効である
イ.取り消すことができる
ウ.必ず有効である
エ.親が知らなければ取り消せない
正解:イ
→ 未成年者は、同意のない契約を原則として取り消せます。

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例題2:詐術による取消しの可否
Q:被保佐人のBが、能力者であると偽って保証契約を締結しました。後に取り消せるか?
ア.取り消せる
イ.取り消せない
ウ.追認が必要である
エ.保証人にはなれない
正解:イ
→ 自ら能力者と偽った場合、民法では「詐術」とされ、取消しできません。
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例題3:成年被後見人の日用品購入
Q:成年被後見人のCが、スーパーで食料品を購入した。この行為は?
ア.常に取り消せる
イ.原則取り消せない
ウ.必ず法定代理人の同意が必要
エ.売主が知っていたら無効
正解:イ
→ 日用品などの購入行為は取り消せません。
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宅建業法との関係にも注意!
宅建業者として登録された者が成年被後見人や被保佐人であっても、個別に審査を通過すれば登録が可能です。ただし、業務に関して行った行為については、制限行為能力を理由に取り消すことができません。
つまり、宅建業に関する取引は、本人が能力に制限があっても原則として取り消せないのです。

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まとめ
制限行為能力者制度は、民法の理解の出発点とも言える重要な制度です。以下の点をしっかり押さえておきましょう。
- 行為能力とは何かを理解する
- 未成年者・成年被後見人・被保佐人・被補助人の違い
- どの行為が取り消せるのか、どの行為は取り消せないのか
- 法定代理人の役割と代理権の及ぶ範囲
- 試験でよく出る「詐術による取り消し不可」のケース
この記事を繰り返し読み、例題を何度も解くことで、確実に得点源にできるテーマです。
