
民法の中でも宅建試験で頻出なのが「代理」に関するテーマです。代理とは何か、どんな条件で成立するのか、また「無権代理」や「復代理」といった応用的な論点も重要です。この記事では、代理制度の基本から実務でも混同しやすいポイントまで、例題とともにわかりやすく解説します。

代理制度の意義とは?
代理とは、代理人が本人の代わりに法律行為を行い、その効果が本人に直接帰属する制度です。
例えば、Aが不動産を売却したいが多忙のためBに代理を頼み、Bが買主Cと契約する。この場合、契約の効果はBではなくAに帰属します。
代理制度は、
- 本人が取引に不慣れな場合の補助
- 成年被後見人などの代行
- 取引を円滑に進めるための手段
として私的自治を補完・拡張する役割があります。

法定代理と任意代理の違い
代理は、その権限の発生原因により次の2種類に分かれます。
- 法定代理:親権者や後見人など、法律の規定に基づくもの
- 任意代理:委任契約など、本人の意思に基づいて成立するもの
代理には「本人・代理人・相手方」の三者が登場する点も重要です。
代理行為が本人に帰属するための2つの要件
代理行為の効果が本人に帰属するには、次の2つの要件が必要です。
- 代理権があること
- 本人のためにする意思があること(顕名)
顕名とは、例えば「A代理人B」と明示することです。これにより、誰の代理として行ったのかを相手方に明らかにします。
顕名のない意思表示の効果とは?
代理人が顕名せずに契約した場合、原則として代理人自身が契約当事者となります。
ただし、相手方が代理人が本人のためにしていることを知っていた(悪意)または知るべきであった(有過失)場合は、本人に効果が帰属します。

代理権の濫用とは?
代理権の濫用とは、代理権の範囲内であっても、自己や第三者の利益を図る目的で行為をすることです。
この場合、相手方が代理人の目的を知っていた(悪意)または知るべきだった(有過失)なら、無権代理と同様に扱われ、契約は本人に効果を及ぼしません。
代理行為の瑕疵は誰を基準に判断する?
意思表示に瑕疵(錯誤・詐欺・強迫など)がある場合、その判断基準は次のように分かれます。
- 代理人が相手方に意思表示したとき:代理人の善意・悪意で判断
- 相手方が代理人に意思表示したとき:代理人を基準に判断
→ 本人の事情(悪意・善意など)を基準にしない
※ただし、本人が特定の行為を委託した場合で本人が知っていた事情について、代理人が知らなかったことは主張できません。

代理人の行為能力に制限がある場合の取り扱い
制限行為能力者(例:未成年者)も代理人になることは可能です。
- 原則として、代理行為は本人に効果が帰属するため、代理人の能力制限を理由に取り消すことはできません。
- ただし、制限行為能力者が法定代理人として行為をした場合は、本人(たとえば子ども)の保護のため、取り消しが認められるケースもあります。
権限の定めがない場合の代理権の範囲
代理権の範囲が明確に定められていない場合、代理人ができる行為は限られます。
- 保存行為
- 目的物の性質を変えない範囲の利用・改良
これを超える処分行為(売買や担保設定など)には、明確な授権が必要です。

復代理とは?その意義と制限
復代理とは、代理人が別の者(復代理人)を選任し、その者が本人の代理をする制度です。
- 復代理人は本人の代理人であり、代理人の代理人ではない
- 任意代理人は、本人の許可がある場合またはやむを得ない場合に限り、復代理人を選任できます
- 法定代理人は自由に復代理人を選任可能ですが、原則としてその行為について全責任を負うことになります(ただしやむを得ない事由がある場合は例外)
例題で理解を深めよう!
例題1:顕名に関する問題
BがAの代理人であることを表示せずにCと契約した。CはBが代理人であることを知らなかった。この場合、契約の効果は誰に帰属するか?
ア.Aに帰属する
イ.Bに帰属する
ウ.AとBのいずれにも帰属しない
エ.Cに選択権がある
正解:イ
→ 顕名がなければ、原則として代理人に効果が帰属します。
例題2:代理権の濫用に関する問題
Bが自己の利益のために代理権を使ってCと契約した。Cはその目的を知っていた。この契約の効果は?
ア.本人Aに帰属する
イ.契約は無効
ウ.本人Aに帰属しない
エ.本人Aに承認されるまでは未確定
正解:ウ
→ 権限濫用であり、相手方が悪意または有過失なので本人に効果は帰属しません。
まとめ
宅建試験で問われる代理制度のポイントは以下のとおりです。
- 代理制度では「代理権」と「顕名」が必須
- 顕名なき契約は原則として代理人に効果が帰属
- 権限の濫用がある場合、本人に効果が及ばないこともある
- 瑕疵の判断は代理人を基準とする
- 制限行為能力者も代理人になれるが、本人の保護には例外あり
- 復代理制度は、任意代理と法定代理で責任範囲が異なる

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