民法における「意思表示」は、契約や売買などあらゆる法律行為の前提となる基本概念です。宅建試験でも、「心裡留保」や「虚偽表示」、「錯誤」などの無効・取消しに関する問題は頻出です。
この記事では、意思表示の基本構造を確認したうえで、心裡留保や虚偽表示の具体的効果、善意の第三者が登場したときの法律関係までを整理します。例題も交えながら、確実な得点につなげましょう。


⸻
意思表示とは何か?その構造を理解しよう
意思表示とは、「権利義務を発生させようとする意思を、外部に表現する行為」です。これは大きく分けて「内心の意思」と「その表現(表示)」から成り立っています。
たとえば、Aさんが「通勤に便利だからこの物件を買いたい」と思い、実際に不動産業者に「購入したいです」と申し込んだ場合、その行為が「意思表示」となります。
ここでのポイントは、「購入の動機(例:駅ができる)」は、意思表示に含まれないという点です。ただし、次回以降で学ぶ「動機の錯誤」となる場合があります。
⸻
心裡留保とは?冗談や皮肉の法律効果
心裡留保とは、「本人が真意ではないことを自覚しながら行う意思表示」です。
たとえば、AさんがBさんに「この家タダであげるよ!」と冗談で言った場合、これが心裡留保にあたります。
この場合、民法は以下のように定めています。
- 原則:有効 表示どおりの効果が生じる
- 相手方が「真意でないことを知っていた または 知ることができた」場合:無効
ただし、たとえ無効でも「善意の第三者」には主張できません(第三者保護)。つまり、第三者にはその行為が有効であると扱われます。

⸻
虚偽表示とは?当事者が通謀した場合の法律効果
虚偽表示とは、「表意者が真意でないことを知りながら、相手方と通謀して行う虚偽の意思表示」のことです。
たとえば、Aさんが差押えを逃れるため、Bさんと通謀して不動産の売買契約を仮装する場合がこれに該当します。
この場合、
- AとBの間の契約は無効です
- ただし、善意の第三者(例:Cさん)がBからその不動産を購入した場合、無効を主張できない(対抗できない)
ここでの「第三者」とは、「虚偽表示の当事者やその承継人ではなく、その表示の目的に法律上の利害関係を有するに至った人」のことです。判例では、以下のような人を「第三者」にあたるとしています。

⸻
判例が認めた第三者と認めなかった第三者
第三者にあたるとした例
- 不動産を仮装譲受人から買った人
- 仮装譲受人から抵当権の設定を受けた人
- 仮装譲受人の名義となった不動産を差し押さえた一般債権者
- 仮装債権に基づき転抵当を受けた人
- 仮装債権の譲受人
- 転得者(仮装譲渡のあとの購入者)
第三者にあたらないとされた例
- 差押えをしていない一般債権者
- 建物の賃借人(仮装譲渡された土地に建てられた建物)
- 土地の賃貸人(建物を仮装譲渡された場合)
つまり、土地と建物など、別の不動産にしか利害がない者には、第三者としての保護は及びません。

⸻
第三者保護の「類推適用」とは何か?
民法94条2項は「虚偽表示の無効は善意の第三者に対抗できない」と定めています。
この規定は、「虚偽表示」そのものでない場合でも、「虚偽の外観を信頼した者を保護すべき」ケースに類推適用されることがあります。
例:
Aが真意でないのに、Bに所有権移転登記をした。Bの同意がなかったため、仮装譲渡ではないが、「虚偽の外観」が存在します。
この場合、CがBから土地を購入し、善意であれば、AはCに「登記は無効」と主張できません。
⸻
例題でチェック!
問題1:
Aは冗談のつもりでBに対して「この家あげるよ」と言い、Bは真に受けて登記まで済ませた。この契約はどうなるか?
ア.無効
イ.常に有効
ウ.Bが真意でないと知っていれば無効
エ.善意の第三者には対抗できない
正解:ウ
→ 心裡留保は原則有効ですが、相手方が悪意・有過失なら無効になります。
⸻
問題2:
Aは差押えを逃れるため、Bと通謀して不動産の仮装売買契約を結んだ。後にBから善意のCが不動産を購入した。この場合、CはAに対して所有権を主張できるか?
ア.できない
イ.虚偽表示なので常に無効
ウ.善意無過失であれば主張できる
エ.善意であれば主張できる
正解:エ
→ 虚偽表示の無効は、善意の第三者に対抗できません。無過失は不要です。

⸻
まとめ
宅建試験における意思表示の分野では、以下の点を押さえることが得点アップのカギです。
- 意思表示は「意思」と「表示」から成る
- 心裡留保は原則有効、虚偽表示は原則無効
- 第三者が善意であれば、無効を主張できない
- 類推適用により保護されるケースもある
実際の試験では細かな表現の違いで正誤が分かれますので、判例の考え方まで理解しておくことが重要です。

⸻