宅建試験で出題される契約の分野では、売買・賃貸借に加え、請負契約・委任契約・寄託契約などの特有の契約類型も頻出します。それぞれの契約には、成立のための要件や契約解除、義務の内容に独自のルールがあり、混同しやすいポイントでもあります。
本記事では、宅建試験で特に重要な請負・委任・寄託の3契約について、要点を体系的に整理し、例題を交えて理解を深めていきます。


請負契約とは?仕事の完成を目的とした有償契約
請負契約とは、請負人が一定の仕事を完成させ、注文者がその完成した成果物に対して報酬を支払う契約です。
- 諾成契約:合意のみで成立
- 双務契約:双方に義務あり
- 有償契約:報酬が発生
例:住宅の建築請負、Webサイト制作など

請負契約の報酬・解除・担保責任
報酬の支払い時期
- 目的物の引渡しがある場合 → 引渡しと同時に支払い
- 引渡しが不要な場合 → 仕事の終了後に支払う(後払いが原則)
完成できなかった場合の報酬
以下のように、注文者の利益の程度に応じた報酬請求が認められます。
状況 | 請求可能な報酬 |
---|---|
注文者の責任 | 全額請求可能 |
双方に責任なし | 利益の割合に応じて請求 |
請負人の責任 | 利益の割合に応じて請求 |

契約不適合責任(担保責任)
請負人は契約に適合した成果物を完成させる義務があり、不適合がある場合は以下の請求が可能です。
- 修補(追完)請求
- 報酬の減額請求
- 損害賠償請求
- 契約解除
【注意】注文者の指示や材料に原因がある場合、これらの請求はできません。ただし、請負人が不適当であることを知りながら告げなかった場合には、責任を負います。

請負契約の解除と注文者の破産
- 注文者は損害賠償を支払えばいつでも契約解除可能
- 注文者が破産手続開始の決定を受けた場合 → 請負人または破産管財人が契約解除可能(ただし、仕事完成後は不可)
委任契約とは?法律行為の代理を頼む契約
委任契約とは、法律行為を行うことを委託する契約です。
- 諾成・片務・無償契約(特約で有償にできる)
- 信頼関係が重要
- 準委任:法律行為以外の事務委託に委任契約のルールが準用される

受任者の義務
- 善管注意義務:善良な管理者として行動
- 報告義務:請求があれば処理状況を随時報告
- 引渡義務:委任事務で得た金銭や権利は委任者へ引き渡す
※復受任者の選任には、委任者の許諾かやむを得ない理由が必要です。
委任者の義務
- 報酬支払義務(有償委任の場合)
- 費用等の償還義務(交通費、損害補填など)
- 成果報酬契約では、成果の引渡しと同時に報酬支払義務が生じる

委任契約の解除と終了
- 各当事者はいつでも解除可能(将来に向かって効力)
- 不利な時期に解除した場合などは損害賠償の責任が生じることも
委任契約は以下の事由で終了します。
委任者の事情 | 受任者の事情 |
---|---|
死亡 | 死亡 |
破産 | 破産 |
― | 後見開始の審判 |
寄託契約とは?物を無償で預ける契約
寄託契約とは、一方が物の保管を依頼し、相手が承諾することで成立する契約です。
- 諾成・片務・無償契約(特約で有償にできる)
- 例:倉庫に荷物を預ける契約など
寄託物の保管義務
契約の種類 | 注意義務 |
---|---|
無報酬寄託 | 自己の財産と同程度の注意で保管(軽い義務) |
有償寄託 | 善管注意義務を負う |
寄託物の返還請求と時期
保管期間の定め | 寄託者の返還請求 | 受寄者の返還権 |
---|---|---|
あり | いつでも請求可能(損害賠償の可能性あり) | 正当理由なければ不可 |
なし | いつでも請求可 | いつでも返還可 |
返還は、原則として保管場所で行う必要があります。

実力確認!例題で理解を深めよう
例題1:請負契約に関する記述として正しいものはどれか?
ア.注文者が破産しても契約解除はできない
イ.注文者は仕事完成後でも自由に契約を解除できる
ウ.請負人が仕事を完成できなかった場合、報酬は一切請求できない
エ.注文者は、損害を賠償すれば仕事完成前に契約を解除できる
正解:エ
例題2:委任契約に関する記述で正しいものはどれか?
ア.委任契約は一度結べば一方的な解除はできない
イ.委任契約の解除は過去にさかのぼって効力がある
ウ.委任契約はいつでも解除可能で将来に向かって効力を生じる
エ.受任者は委任者の許諾がなくても復受任者を選任できる
正解:ウ
例題3:寄託契約に関する記述で正しいものはどれか?
ア.受寄者は寄託物を自己の財産以上に注意して保管しなければならない
イ.保管期間の定めがある場合、受寄者はいつでも返還できる
ウ.寄託者はいつでも返還を請求できる
エ.無報酬寄託であっても善管注意義務がある
正解:ウ

まとめ
請負・委任・寄託契約は、それぞれ目的・責任・契約解除のタイミングが大きく異なります。混同しないよう、以下のポイントをしっかり区別しておきましょう。
- 請負契約は「仕事の完成」を目的とし、報酬は成果物の引渡し時に発生
- 委任契約は「法律行為の代行」が目的で、信頼関係が重視される
- 寄託契約は「物の保管」が目的で、原則無償で成立する
- それぞれの契約には解除の自由度や責任の範囲に違いがある
コメント