宅建試験において、賃貸借契約の出題頻度は非常に高く、民法・借地借家法双方にまたがる重要テーマです。契約の性質や期間の定め、登記の有無による対抗力、貸主・借主の義務、修繕・敷金・費用償還など、条文理解と判例知識の両方が問われます。
本記事では、賃貸借契約に関する知識を一から丁寧に整理し、例題で定着を図ります。


賃貸借契約の意味と成立の基本
賃貸借契約は、貸主(賃貸人)が物の使用収益を借主(賃借人)に認めることを約束し、借主が賃料を支払うことで成立する「諾成・双務・有償契約」です。
- 諾成契約:口頭や書面による合意だけで成立(目的物の引渡し不要)
- 双務契約:貸主と借主が相互に義務を負う
- 有償契約:借主は使用収益の対価(賃料)を支払う
目的物は不動産に限らず、動産でもかまいません。

賃貸借の期間と黙示の更新
賃貸借期間の原則
- 最長期間は 50年
- 50年を超えて定めた場合は、自動的に50年に短縮される
- 更新後の契約も50年を超えることはできません

短期賃貸借
権限のない代理人等が締結できる「短期賃貸借」の期間は以下の通り:
目的物 | 上限期間 |
---|---|
山林(栽植・伐採) | 10年 |
その他の土地 | 5年 |
建物 | 3年 |
※未成年者・成年被後見人は短期賃貸借すら単独で締結できません。

黙示の更新と敷金の扱い
賃貸借契約終了後も、借主が使用収益を継続し、貸主が異議を述べない場合は「黙示の更新」が認められ、同一条件で契約が続いたとみなされます。
- この場合、期間は「定めのない賃貸借」となり、以下の解約申入れ期間が必要:
物件 | 解約申入れからの終了期間 |
---|---|
土地 | 1年 |
建物 | 3か月 |
敷金の扱い: 契約更新時も消滅せず、契約終了・返還時に債務分を控除して返還されます。
賃借物返還と敷金返還は「同時履行の関係」にならないため、敷金未返還を理由に返還を拒むことはできません。

賃貸借の対抗力と賃貸人地位の移転
登記による対抗力の発生
不動産賃貸借において、登記がある場合は第三者に対抗可能です。ただし、賃借人には登記請求権がないことに注意(判例)。
賃貸人地位の移転と対抗要件
- 不動産の譲渡により賃貸人地位も移転(対抗要件がある場合)
- 地位の移転を賃借人に対抗するには、譲受人が所有権の登記を必要とする
- 地位留保特約がある場合は、譲受人ではなく譲渡人に地位が残ることもある
【例】AがBに貸していた建物をCに売却 → Cが所有権登記をしない限り、賃借人BはCを新たな賃貸人と認めなくてよい
借主と貸主の義務一覧
借主の義務
- 賃料支払い義務
原則、月末払い(建物・宅地・動産)
賃借物の一部が使えなくなった場合:使用不能分に応じて減額
残りだけでは目的達成できないなら:解除可能 - 保管義務・通知義務
契約内容や物の性質に従って使用する義務
不具合や第三者の権利主張を受けた場合、貸主への通知義務あり
※返還後に損害賠償請求をするには「1年以内」の請求が必要
貸主の義務
- 修繕義務
必要な修繕をする義務あり。借主はこれを拒めません。
借主が通知したにもかかわらず修繕しない、または急迫の場合は、借主自身が修繕できます。 - 保存行為と解除権
借主の意思に反して保存行為がなされ、その結果契約目的を達成できない場合、借主は契約を解除できます。 - 費用の償還義務
費用の種類 | 内容 |
---|---|
必要費 | 保存・修繕などに必要な支出。借主の請求により「直ちに」償還される |
有益費 | 物件の価値を高めた改良費など。貸主は「契約終了時」に支払うか否かを選択可能。裁判所が支払時期を指定することもある |
※借主の請求は「物件返還から1年以内」に行使が必要。

実力チェック!例題で確認
例題1:賃貸借契約に関する記述として、正しいものはどれか?
ア.賃貸借契約は目的物の引渡しによって効力が生じる
イ.建物賃貸借の最長期間は原則として30年である
ウ.賃借人の使用継続に異議を述べなかった場合、契約は黙示更新される
エ.黙示更新された契約の敷金は新たに交付し直す必要がある
正解:ウ
例題2:次のうち、不動産の賃貸人たる地位の移転について誤っているものはどれか?
ア.不動産の譲渡とともに賃貸人たる地位も移転する
イ.譲受人が所有権の登記をしていなくても、賃貸人地位を賃借人に対抗できる
ウ.地位を譲渡人に留保する旨の合意があれば、移転しない
エ.地位が移転した場合、敷金の返還義務も新たな賃貸人が負う
正解:イ
例題3:賃貸人の義務について正しいものはどれか?
ア.借主が修繕した場合は、賃貸人はその内容に関係なく償還義務を負う
イ.保存行為のために借主の目的が果たせないとき、解除はできない
ウ.賃貸人は、必要費について請求があれば直ちに支払う義務を負う
エ.有益費はすべて裁判所が金額を決定する
正解:ウ

まとめ
賃貸借契約は、宅建試験において頻出の分野であり、民法の基礎知識と判例理解のバランスが問われます。以下の点を重点的に確認しておきましょう。
- 賃貸借契約の性質と成立の条件
- 賃貸借期間の上限、短期賃貸借の規定
- 対抗要件の要否と登記の影響
- 貸主・借主の義務とその範囲
- 敷金や費用償還の法的処理と時効
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