宅建試験の合格を目指す皆さん、こんにちは。
不動産市場の過熱に対し、行政が具体的な抑制策に乗り出すという、非常に重要なニュースが報じられました。東京・千代田区が、不動産の業界団体に対し、マンションの短期転売などを抑制するよう、初めて正式に「要請」を行ったのです。この動きは、単なる市場動向のニュースに留まらず、皆さんが学ぶ「宅建業法」や「民法」の知識が、現実の社会問題とどう関わっているのかを示す、格好の事例と言えるでしょう。
なぜ自治体が動くのか 1.3億円超のマンション価格
まず、今回の要請の背景にあるのは、もはや異常とも言える都心部のマンション価格の高騰です。今年上半期の東京23区の新築マンション平均価格は1億3000万円を超え、その要因の一つとして、短期的な利益を狙った国内外からの投機目的の購入が指摘されています。
千代田区は、この状況が続けば「区に本当に住みたい人が住めなくなる」という強い危機感を抱いています。価格高騰が、住宅だけでなく賃貸物件の家賃上昇にもつながることを懸念し、自治体として市場の過熱に歯止めをかけるべく、今回の異例の要請に踏み切ったのです。

要請の核心「5年転売禁止」と対象物件
今回の要請で特に注目すべきは、その具体的な内容と対象物件です。
- 要請内容1:引き渡しから原則5年間、転売できない特約をつけること。
- 要請内容2:同一名義での複数の物件の購入を禁止すること。
そして、これらの要請の対象となるのが、補助金の交付や高さ制限の緩和などが認められた「公共性の高い事業で建設されたマンション」である、という点です。これは、「行政からの恩恵を受ける再開発事業なのだから、投機目的ではなく、地域の居住安定に貢献すべき」という、区からの強いメッセージが込められています。

「要請」を支える法的手段「買戻しの特約」
では、「転売禁止」は、契約上どのように実現されるのでしょうか。ここで、皆さんが民法で学ぶ「買戻しの特約」の知識が活きてきます。
これは、売主が将来、代金などを返還することで、一方的に売買契約を解除し、物件を取り戻せる権利を留保する特約です。この特約を契約書に盛り込み、「もし5年以内に転売しようとした場合は、売主(デベロッパー)が元々の価格で買い戻します」と定めることで、短期転売による利益獲得を事実上不可能にすることができます。民法上、買戻しの期間は最長10年と定められているため、5年間という設定は法的に有効です。

「要請」の限界と自主的な取り組みの広がり
ただし、今回の措置は、あくまで法律による強制力を持たない「要請」、すなわち一種の「行政指導」です。そのため、不動産会社がこれに従うかは、最終的には自主的な判断に委ねられます。
しかし、ニュースによると、すでに一部の不動産会社では、同様の特約を設けるなどの自主的な動きも出ています。社会的な要請の高まりを受け、業界としても過度な投機を抑制し、市場の健全性を保つ必要性を感じていることの表れと言えるでしょう。

宅建士が知るべき「行政指導」と業界の未来
私たち宅建士を目指す者にとって、このニュースは、不動産取引が単なる私的な契約だけでなく、社会情勢や行政の意向と密接に関わっていることを教えてくれます。
法律の条文だけでなく、こうした「行政指導」の内容や、それがなぜ行われるのかという社会的背景までを理解しておくこと。そして、契約書に記載される「特約」の一つ一つに、どのような意図が込められているのかを顧客に正確に説明できること。それこそが、これからの時代に求められる不動産のプロフェッショナルとしての付加価値であり、信頼の源泉となるのです。
千代田区は、今後、国や東京都にも対応を求めていくとしており、この動きが都心全体、ひいては全国的な規制につながっていくのか、引き続き注視が必要です。
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