時効に関する知識は、宅建試験の権利関係分野において頻出であり、特にその完成猶予や更新、取得時効と消滅時効の理解は得点に直結します。民法改正によって表現が明確化されており、制度の意義を正確に把握することが求められます。
この記事では、時効の進行に関する主要なルールと具体的な事例、宅建試験で問われやすい例題を交えて、知識の定着をサポートします。


時効の完成猶予とは?時効の進行が一時停止する理由
時効の完成猶予とは、一定の事由が発生した場合に、その間は時効が完成しないという制度です。
以下のようなケースが完成猶予に該当します。
- 裁判上の請求や支払督促
- 調停・和解・破産手続参加
- 強制執行・仮差押え・仮処分
- 催告(6ヶ月間の猶予)
- 協議合意(書面による場合は最大5年)
- 未成年者や成年被後見人に関する事情
- 夫婦間の権利関係(婚姻解消から6ヶ月)
- 相続財産に関する手続き中
- 天災等で行使が著しく困難な場合(3ヶ月間)
時効の更新とは?時効進行のリセットが起こる瞬間
時効の更新とは、一定の事由が生じたことでそれまでの時効の進行が無意味になり、ゼロから再び進行することをいいます。
代表的な更新事由:
- 裁判上の請求後に権利が確定(確定判決)
- 強制執行後に債権が残っている場合
- 債務者による承認(債務の存在を認めた)
重要ポイント:更新が起こると、時効の期間が新たにスタートします。
相対効に注意!更新や猶予の効果は限定的
完成猶予・更新の効果は「当事者およびその承継人の間のみ有効」という「相対効」が原則です。
例:連帯債務者AとBがいて、Aのみが時効を承認しても、Bの時効進行には影響がありません。
※ただし、地役権などの不可分な権利には例外があります。

取得時効とは?他人の物を合法的に取得する制度
取得時効とは、他人の物を一定期間「所有の意思をもって、平穏・公然と」占有することで、その所有権または財産権を取得する制度です。
長期取得時効
- 条件:20年間の占有
- 要件:所有の意思・平穏・公然
- 善意・無過失は不要
- 効果:原始取得(抵当権なども消滅)

短期取得時効
- 条件:10年間の占有
- 要件:上記+占有開始時点で善意・無過失
占有の承継と瑕疵の引継ぎに注意
占有者が途中で変わった場合、後の占有者は前主の占有を併せて主張することも、自分のみで主張することも可能です。
ただし、併せて主張する場合には、前主の占有に瑕疵(悪意・過失など)があればそれも承継されます。
例:Aが8年間悪意で占有し、Bが2年間占有した場合、短期時効(10年)は主張不可。ただし、合計20年占有すれば長期取得時効が成立します。
所有権以外の財産権も取得時効の対象
地上権、永小作権、地役権、土地賃借権、質権などの財産権も時効で取得可能です。
ただし、土地賃借権の場合は、継続的な使用と賃借の意思の外形的表現が必要とされます(判例)。

消滅時効とは?一定期間権利を行使しないと消える制度
消滅時効とは、一定期間権利を行使しないと、その権利が消滅する制度です。
起算点の種類
- 主観的起算点:権利を行使できると知ったとき
- 客観的起算点:実際に行使できる状態になったとき
事実上の障害(病気、災害等)は影響しません。
消滅時効期間の区別と例外
権利の種類 | 主観的起算点 | 客観的起算点 |
---|---|---|
一般の債権 | 5年 | 10年 |
財産権(地役権等) | ― | 20年 |
生命・身体侵害の損害賠償 | 5年 | 20年 |
確定判決による権利 | ― | 一律10年 |
実力確認!例題でチェック
問題1:短期取得時効に関する記述として正しいものはどれか?
ア.占有期間が10年なら善意・無過失である必要はない
イ.占有開始時に善意かつ無過失であればよい
ウ.占有期間中ずっと善意である必要がある
エ.所有の意思がない賃借人でも時効取得できる
正解:イ
問題2:債権の消滅時効に関する記述として正しいものはどれか?
ア.時効完成には援用が不要である
イ.天災があれば客観的起算点は進行しない
ウ.権利を行使できると知ってから5年経過で消滅する
エ.時効は裁判所が職権で判断する
正解:ウ
問題3:時効の更新について正しいものはどれか?
ア.仮差押えによって時効は更新される
イ.承認があれば時効の進行がゼロから開始される
ウ.更新の効果は絶対効である
エ.催告があれば時効はリセットされる
正解:イ

まとめ
宅建試験で時効問題を得点源にするには、以下を押さえましょう。
- 完成猶予と更新の違いと事例を整理
- 時効の更新にはリセット効果がある
- 取得時効は所有の意思+善意・無過失の有無により長短が決まる
- 占有の承継は瑕疵も引き継ぐ
- 消滅時効の起算点と期間は債権の種類で異なる
- 時効の援用がなければ効果は生じない
次回は「債権と債務の履行」「契約の解除と損害賠償」などに進む予定です。図解やチャートなど補助教材をご希望の方はお気軽にお知らせください。
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