はじめに
賃貸不動産経営管理士試験では、「賃貸借契約の成立と分類」に関する問題が頻出です。特に、管理受託方式とサブリース方式の違いや、契約の種類(諾成契約・要物契約・双務契約など)を正確に理解しておくことが合否を分けます。
この記事では、民法の基礎から契約自由の原則、意思表示に関する重要論点までを、例題を交えながら丁寧に解説します。
1.管理受託方式とサブリース方式の違い
賃貸住宅を運営する際には、大きく「管理受託方式」と「サブリース方式」の2つの方式があります。
管理受託方式とは
賃貸人(オーナー)が、管理業者に賃貸住宅の管理を委託する方式です。
賃貸人と入居者の間には通常の賃貸借契約があり、賃貸人と管理業者の間には管理受託契約が結ばれます。管理業者はあくまでオーナーの代理的立場にすぎません。

サブリース方式とは
サブリース業者が住宅の所有者から転貸目的で賃借し、そのうえで第三者に転貸(又貸し)する方式です。
この場合、オーナーとサブリース業者の間に「賃貸借契約」、サブリース業者と入居者の間に「転貸借契約」が存在します。
📌 混同注意!
- 管理受託=「管理の委託」
- サブリース=「転貸を前提とした賃貸」
契約の性質が根本的に異なるため、試験では用語の取り違えに注意が必要です。

2.契約の成立と基本原則(諾成契約・要物契約)
契約は、申込みと承諾による当事者の意思表示の合致で成立します(民法522条1項)。
■諾成契約(だくせいけいやく)
当事者の合意だけで成立する契約。
例:売買契約・賃貸借契約など。
■要物契約(ようぶつけいやく)
実際に物の引渡しをしてはじめて成立する契約。
例:金銭消費貸借契約(民法587条)。
学習ポイント:
書面で行う消費貸借契約は、合意だけで成立する諾成契約(587条の2)に変わります。

3.典型契約の分類と賃貸借契約の位置づけ
民法では、契約名を定めた13種類の「典型契約」が規定されています。
賃貸借契約は、その中でも諾成契約・有償契約・双務契約・不要式契約に分類されます。
■分類早見表
分類項目 | 契約の特徴 | 賃貸借契約の該当 |
---|---|---|
諾成契約 | 合意で成立 | ○ |
有償契約 | 対価を伴う | ○ |
双務契約 | 双方が債務を負う | ○ |
不要式契約 | 書面不要で成立 | ○ |
4.契約自由の原則とその制限
契約は、原則として「自由に結べる」ものとされています(民法521条)。
(1) 契約締結の自由
契約をするかしないかは当事者の自由。ただし、終身建物賃貸借に関しては、配偶者等に契約締結義務が課される特例があります(高齢者住まい法62条)。
(2) 相手方選択の自由
契約相手を自由に選べます。ただし、外国人や障害者を理由とする入居拒否は違法とされる判例があります(大阪地判平5・6・18など)。
(3) 内容決定の自由
契約内容は原則自由に定められますが、公序良俗(民法90条)や強行法規に反する内容は無効です。
(4) 方式の自由
原則として書面を必要としませんが、保証契約や定期借地権など特定の契約では書面または電磁的記録が必要です。

5.意思表示の効力と無効・取消し
契約を成立させるための意思表示に問題があると、契約は無効または取消しとなる場合があります。
(1) 公序良俗違反(民法90条)
社会的妥当性を欠く契約(愛人契約、人身売買など)は無効。
(2) 心裡留保(民法93条)
本心ではない意思表示。相手方が善意・無過失なら契約は有効。
(3) 虚偽表示(民法94条)
当事者が通謀して虚偽の契約をした場合は無効。ただし、善意の第三者は保護されます。
(4) 錯誤(民法95条)
思い違いに基づく契約。錯誤が重要で、表意者に重大な過失がなければ取消可能。
(5) 詐欺・強迫(民法96条)
詐欺や脅迫により意思表示をした場合は取消可能。
第三者による詐欺の場合、相手方が悪意・有過失なら取消可能です。

6.第三者保護の整理表
区分 | 契約の効力 | 第三者が保護される条件 |
---|---|---|
心裡留保 | 原則有効 | 善意なら保護(無過失不要) |
虚偽表示 | 無効 | 善意なら保護(無過失不要) |
錯誤 | 取消可能 | 善意かつ無過失 |
詐欺 | 取消可能 | 善意かつ無過失 |
強迫 | 取消可能 | 善意・無過失でも対抗可能 |
📘 試験ポイント:
「善意のみで保護される」→心裡留保・虚偽表示
「善意かつ無過失で保護される」→錯誤・詐欺
「強迫」→第三者に対抗できる(例外的)

💡例題で確認!
例題1
Aは自宅を売る意思がないのに、Bに「この家を譲ります」と言いました。BはAの真意を知らずに信じて承諾しました。この契約は有効でしょうか?
解答と解説
これは「心裡留保」に該当します。相手方Bが善意・無過失であれば契約は有効です(民法93条1項本文)。
例題2
AとBが通謀して、Cの差押えを逃れるために「売買契約を装った」場合、Cは所有権を主張できますか?
解答と解説
虚偽表示に該当し契約は無効ですが、Cが善意であれば保護されます(民法94条2項)。
例題3
Aが新駅建設の噂を信じて土地を購入したが、それが誤情報だった場合、契約を取り消せるか?
解答と解説
動機の錯誤に該当しますが、動機が相手方に表示されていた場合のみ取り消せます(民法95条1項2号)。

まとめ:本章の学習ポイント
✅ 管理受託方式とサブリース方式の違いを押さえる
✅ 賃貸借契約は「諾成・双務・有償・不要式契約」
✅ 契約自由の原則は万能ではなく、公序良俗や法令で制限あり
✅ 意思表示の効力に関する条文(93〜96条)は試験頻出
✅ 第三者保護の要件(善意・無過失)を整理して暗記!
おわりに
「契約の成立と分類」は、賃貸不動産経営管理士試験の民法分野で最も基礎的かつ得点源になるテーマです。
この章をしっかり理解しておけば、「管理受託契約」や「特定賃貸借契約」など後の学習もスムーズになります。
次回は、「賃貸借契約の期間・更新・解除」に進み、実務にも直結する重要ポイントを整理していきます。
コメント