宅建試験の権利関係では「抵当権」は定番の重要テーマです。担保物権の中でも登記との関係性、物上代位、優先弁済など、細かい知識が問われることが多く、確実に得点するためには制度の仕組みと判例の理解が欠かせません。
この記事では、抵当権の概要から5つの法的性質、設定と効力の及ぶ範囲までを体系的に解説し、例題で理解を深めます。


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担保物権の種類と意味を理解しよう
担保物権とは、債権の担保を目的とする物権です。民法では次の4つが定められています。
- 抵当権
- 質権
- 留置権
- 先取特権
この4つを「典型担保」と呼び、さらに判例で認められた譲渡担保や所有権留保を「非典型担保」と言います。
担保物権は、債務者が弁済しないときに担保物から弁済を受けられる強力な手段であり、担保の有無によって債権の保全力が大きく変わります。

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担保物権の取得方法を区別しよう
担保物権の取得には2つのタイプがあります。
種類 | 主な例 | 成立の根拠 |
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約定担保物権 | 抵当権、質権 | 契約(合意) |
法定担保物権 | 先取特権、留置権 | 法律の定め |
抵当権は金銭消費貸借契約に加え、別途抵当権設定契約が必要です。単にお金を貸しただけでは抵当権は成立しません。

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担保物権に共通する5つの性質
担保物権には以下のような共通の法的性質があります。
1. 付従性(ふじゅうせい)
被担保債権が存在しないと、担保物権も成立しません。また、債権が弁済などで消滅すれば、担保物権も消滅します。
2. 随伴性(ずいはんせい)
債権が第三者に譲渡されると、担保物権も新債権者に移転します。
※ただし、根抵当権は元本確定前には付従性・随伴性を持ちません。

3. 不可分性
債権が一部弁済されても、担保物権は全体に効力を持ち続けます。(例:1000万円中500万円を返しても、抵当権は物件全体に残る)

4. 物上代位性
担保目的物が滅失・売却された場合、その代わりに発生する保険金や損害賠償金にも効力が及びます。ただし、差押えが必要です。
例:抵当建物が火災で焼失した場合、その保険金請求権にも抵当権の効力が及びます。
5. 優先弁済的効力
担保物権者は、他の債権者よりも優先して競売代金などから弁済を受けられます。
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抵当権の基本と特徴
抵当権の定義
抵当権とは、不動産に設定され、占有を移転せずに、債務不履行時には競売によって優先弁済を受けることができる物権です。
- 債務者だけでなく、第三者の不動産にも設定可能(→物上保証人)
- 土地・建物だけでなく、地上権や永小作権にも設定可能

設定と登記
抵当権は契約によって設定され(=約定担保物権)、登記を備えることで第三者に対抗可能となります。
- 占有の移転は不要。設定者は使用・収益・処分が可能
- 抵当不動産の処分に抵当権者の同意は不要だが、抵当権は存続する
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抵当権の効力の及ぶ範囲
抵当権の効力は以下にも及びます。
- 付加物(例:増築された建物部分)
- 従物(例:物置小屋)
- 従たる権利(例:借地上建物への抵当権→借地権にも及ぶ)
ただし、土地と建物は別個の不動産なので、土地に抵当権を設定しても建物には及びません。
また、使用・収益権は設定者に留保されているため、通常の果実には効力が及びません。

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抵当権者の妨害排除請求と順位
妨害排除請求権
抵当権者は、抵当不動産の価値を著しく下げるような行為に対しては排除を請求できます。
これは、正当な占有者(賃借人等)に対しても行使可能な場合があります(判例あり)。
抵当権の順位
1つの不動産に複数の抵当権を設定することが可能です。登記順に「1番抵当権」「2番抵当権」となり、上位の権利が消滅すると次順位が繰り上がります(順位上昇の原則)。
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抵当権の被担保債権の範囲
抵当権者は以下を請求可能です。
- 元本全額
- 利息・損害金などの定期金 → 直近2年分のみが優先弁済の対象(ただし、債務者や物上保証人には全額請求可能)
この「2年分制限」は後順位抵当権者や一般債権者の保護を目的としています。
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実力確認!例題にチャレンジ
問題1:次のうち、担保物権の共通する性質ではないものはどれか?
ア.随伴性
イ.不可分性
ウ.留置的効力
エ.付従性
正解:ウ
→ 留置的効力は留置権と質権のみに認められる。共通性ではない。

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問題2:抵当権が及ぶものとして適切でないものはどれか?
ア.増築部分
イ.従物
ウ.土地に設定した抵当権が建物に及ぶ
エ.借地権
正解:ウ
→ 土地と建物は別物なので、土地の抵当権が建物に及ぶことはない。
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まとめ
抵当権は、宅建試験の担保物権分野で最も重要なテーマの一つです。今回解説したポイントをしっかり押さえておきましょう。
- 担保物権の種類と取得方法を整理
- 付従性・随伴性・不可分性・物上代位・優先弁済の5大性質
- 抵当権の効力は付加物・従物・従たる権利にも及ぶ
- 土地と建物は別個の不動産である点に注意
- 優先弁済は定期金2年分まで(ただし当事者間では制限なし)