宅建試験では「代理」の中でも、自己契約・双方代理と無権代理の理解が問われます。特に無権代理では、追認や取消、さらには相手方や代理人の責任について細かく出題されるため、確実な知識が求められます。
この記事では、民法の代理制度のうち「制限される代理行為」と「無権代理」について、試験で問われやすいポイントを中心に、例題を交えて丁寧に解説します。


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自己契約・双方代理・利益相反行為の禁止とは?
自己契約とは?
代理人が本人の代理人であると同時に、自らが相手方当事者となって契約する行為です。
例:Aの代理人Bが、B自身を買主として、Aの土地をBに売る契約をする場合。
双方代理とは?
同一人物が売主と買主の双方の代理人となって契約を締結する行為です。
例:Bが、売主Aと買主Cの双方の代理人として、土地売買契約を締結。

利益相反行為とは?
自己契約や双方代理には該当しなくても、代理人の行為が本人の利益と相反する行為です。
これらはいずれも本人に不利益が生じる可能性があるため、原則として禁止されており、無権代理とみなされます。
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例外的に許される場合もある
ただし、以下の場合には例外的に有効とされます。
- 債務の履行行為(例:代金の支払い)
- 本人があらかじめ許諾した場合(自己契約・双方代理・利益相反いずれも)
この場合は、代理人の行為は有効となり、本人に効果が帰属します。

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代理権の消滅事由を整理しよう
代理権が消滅すると、それ以降に行われた行為は「無権代理」となります。
共通の消滅事由(法定代理・任意代理)
- 本人の死亡
- 代理人の死亡
- 本人または代理人の破産手続開始
- 成年後見開始の審判(※本人については対象外)
任意代理の特有事由
- 本人の意思による取り消し
- 委任契約の終了
- 代理人の辞任
試験では、「本人が後見開始の審判を受けても代理権は消滅しない」点が狙われます。
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無権代理とは?代理権のない者による行為
無権代理とは、代理権を持たない者が代理人を装って法律行為をすることです。この行為は原則として無効ですが、以下のような処理が可能です。
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本人による追認とその効果
本人は後からその無権代理行為を追認(追認の意思表示)すれば、その効果は本人に帰属します。
追認の効果
- 原則として契約時にさかのぼって(遡及的に)有効になります
- ただし、相手方の合意や第三者の権利を害する場合にはさかのぼらない
追認は相手方または無権代理人に対してすることができます。ただし、相手方に対してしなければ第三者には対抗できません(=相手方が知らない限り、追認の効果を主張できない)。
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相手方の催告権と取消権を押さえよう
催告権とは?
無権代理の相手方は、本人に対して追認するかどうかを一定期間内に確答するよう催告できます。本人が答えなければ、追認拒絶とみなされます。
- この権利は、相手方が善意か悪意かを問わず行使可能です。
取消権とは?
無権代理の相手方は、本人が追認する前であれば契約を取り消すことができます。
ただし、契約時に代理権がないことを知っていた(=悪意)場合は取消しできません。
- 取消権は善意の相手方に限って認められます。

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無権代理人の責任
無権代理人は、以下の場合を除いて、相手方の選択に従い、履行または損害賠償の責任を負います。
責任を負わない場合
1. 相手方が代理権がないことを知っていた(悪意)
2. 相手方が過失により知らなかった(有過失)
※ただし、無権代理人が悪意なら免責されない
3. 無権代理人が制限行為能力者であったとき
このように、無権代理人の責任範囲や相手方の知識・過失の有無が重要になります。
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例題で確認!
問題1:自己契約や双方代理に関する記述として正しいものはどれか?
ア.本人の許諾があれば常に無効となる
イ.債務の履行行為であれば有効となる
ウ.利益相反行為は常に無効である
エ.双方代理は、代理権の濫用と同じく常に取消し可能
正解:イ
→ 自己契約や双方代理でも、債務履行や本人の許諾があれば有効です。
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問題2:無権代理に関する記述のうち、誤っているものはどれか?
ア.追認がなされれば原則として遡及効がある
イ.催告権は相手方が善意のときのみ行使できる
ウ.取消権は善意のときのみ行使できる
エ.追認は相手方または無権代理人に対してできる
正解:イ
→ 催告権は相手方が善意でも悪意でも行使可能です。

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問題3:無権代理人の責任に関する記述として正しいものはどれか?
ア.無権代理人が未成年ならば責任を負う
イ.相手方が悪意でも、無権代理人は責任を負う
ウ.無権代理人が悪意の場合は責任を免れる
エ.相手方が善意かつ過失がなければ、責任追及が可能
正解:エ
→ 相手方が善意・無過失であり、かつ追認されなければ無権代理人に履行または損害賠償を請求できます。
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まとめ
宅建試験では、以下のポイントを確実に押さえることで得点に直結します。
- 自己契約・双方代理・利益相反行為は原則無権代理扱い
- 本人の許諾または債務履行であれば有効
- 無権代理は追認されなければ無効、追認すれば原則として遡及効あり
- 相手方には催告権・取消権あり
- 無権代理人の責任の有無は相手方の善意・過失と代理人の行為能力による
