不法行為は、宅建試験の権利関係分野において毎年のように出題される重要テーマです。不法行為が成立するための要件を理解するだけでなく、特殊な不法行為のバリエーションや損害賠償の方法、消滅時効についても深く理解しておく必要があります。
本記事では、不法行為の意味から始まり、成立要件、責任の類型(使用者責任・共同不法行為など)を体系的に解説し、例題を通して知識の定着を図ります。


不法行為とは?加害者が負う損害賠償責任
不法行為とは、「故意または過失」によって他人の権利や法律上保護される利益を侵害する行為を指します。加害者は、被害者に生じた損害を賠償する責任を負います。
損害の対象は、財産的なものに限らず、身体・名誉・自由など非財産的なものも含まれます。さらに、胎児にも生まれたものとみなして損害賠償請求権が認められる場合があります。

不法行為の成立要件と違法性阻却
不法行為が成立するには、以下の5つの要件をすべて満たす必要があります。
- 損害の発生
- 故意または過失
- 責任能力(12歳前後以上が目安)
- 違法性
- 因果関係(相当因果関係)

違法性が阻却される場合
- 正当防衛:不法行為に対してやむを得ず行為した場合
- 緊急避難:他人の物を損傷して危難を避けた場合
これらに該当する場合、不法行為は成立しません。
損害賠償と過失相殺・損益相殺
不法行為の損害賠償は原則として金銭で行われます。ただし、名誉毀損などでは、被害者の請求により、謝罪広告などの名誉回復措置が命じられることもあります。
被害者にも過失がある場合
- 任意的過失相殺:裁判所が判断して損害賠償額を減額できる
損益相殺の原則
- 被害者が事故により利益を得た場合(例:保険金)、その額を損害賠償から控除可能
- ただし、生命保険金のように被害者の自己負担で加入していたものは控除しない

不法行為による損害賠償請求の時効
原則の時効
- 損害・加害者を知った時から3年
- 不法行為時から20年
人の生命・身体を害した場合
- 損害・加害者を知った時から5年
- 不法行為時から20年

特殊な不法行為責任の類型
監督義務者の責任
責任無能力者(例:幼児)が加害者である場合、親や監督者が損害賠償責任を負います。監督義務を果たしたことを証明できれば免責されることもあります。

使用者責任
被用者が事業の執行中に第三者に損害を与えた場合、その使用者(会社など)も連帯して賠償責任を負います。
- 使用者に選任・監督上の過失がなければ免責される
- 被用者に不法行為が成立しない場合、使用者責任も成立しない
注文者の責任
請負契約における注文者は、請負人の過失による損害については原則として責任を負いません。ただし、注文や指示に過失がある場合は責任を負います。
土地工作物責任
建物や土地の瑕疵による損害については、占有者がまず責任を負い、占有者が注意義務を果たしていた場合、所有者が無過失責任を負います。
共同不法行為責任
複数人による共同行為により損害が生じた場合、または誰が損害を与えたか不明な場合、全員が連帯して賠償責任を負います。

- 教唆者や幇助者も連帯責任を負う
- 加害者間では過失割合に応じて求償が可能
実力チェック!不法行為に関する例題で理解度アップ
例題1:次のうち不法行為が成立するのはどれか?
ア.落雷で通行人にけがを負わせた
イ.正当防衛で他人の物を壊した
ウ.12歳の児童が過失で他人にけがをさせた
エ.過失により他人の所有物を壊した
正解:エ
例題2:不法行為による損害賠償請求の時効について、正しいのはどれか?
ア.すべての不法行為は5年
イ.知った時から3年、行為時から20年
ウ.生命・身体の害の場合でも3年
エ.すべて行為時から10年
正解:イ
例題3:使用者責任について正しいものはどれか?
ア.使用者が監督義務を果たしても責任を負う
イ.被用者に不法行為が成立しなくても使用者は責任を負う
ウ.使用者と被用者は連帯して責任を負う
エ.使用者はすべての損害について被用者に求償できる

正解:ウ
まとめ
不法行為のテーマは、原則的なルールに加え、例外的な責任(特殊の不法行為)や損害賠償の内容など、幅広く出題される分野です。
特に重要なのは以下のポイントです。
- 成立には5つの要件が必要(故意・過失、損害、違法性、責任能力、因果関係)
- 正当防衛や緊急避難は違法性が阻却される
- 損害賠償の方法や過失相殺・損益相殺の違いに注意
- 時効の起算点と期間(3年または5年)を確実に暗記
- 使用者責任や共同不法行為は頻出テーマ
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