宅建試験では、所有権の移転や消滅といった「物権変動」のテーマに加え、その効果を第三者に主張できるかどうか、すなわち「登記の対抗要件」が頻出です。特に相続・取消し・解除・取得時効と登記との関係は、条文だけでなく判例に基づく理解が求められる難所です。
この記事では、それぞれの法的効果と登記の要否を整理し、例題で知識の定着を図ります。


相続と登記の原則と例外
相続による取得は登記不要で対抗可能
相続によって不動産を取得した者は、登記がなくても第三者に対抗できます。相続による物権変動は登記を対抗要件としないため、相続人は登記なしでも所有者と主張可能です。
共同相続の場合も、各相続人は自分の持分について登記がなくても第三者に対抗できます。
相続人が売却した場合の二重譲渡
相続人が被相続人の不動産を他人に売却した場合、被相続人から登記を受けていない先買主と、相続人から購入した者が競合する場合があります。このときは登記を備えた者が勝ちます(判例)。

相続放棄と遺産分割
- 相続放棄:放棄は相続開始時にさかのぼるため、他の相続人は登記なくして単独所有を主張可能。
- 遺産分割:分割は贈与と同視されるため、登記がなければ第三者に対抗できません。
取消しと登記の関係
取消しの効果と第三者への対抗
契約の取消しは、契約時にさかのぼって無効となる効果を持ちます。つまり、当事者は互いに原状回復義務を負います。
しかし、目的物が第三者に転売されていた場合は、その第三者に対抗できるかが問題になります。

理由ごとの対抗可否
取消理由 | 登記の有無にかかわらず対抗可否 | 対抗できる相手 |
---|---|---|
制限行為能力 | 登記ありの第三者にも対抗可能 | 全ての第三者 |
錯誤・詐欺 | 善意・無過失の第三者には対抗不可 | 悪意または有過失者 |
強迫 | 善意でも対抗可能 | 全ての第三者 |
重要なのは、取消し自体は可能であっても、「返還請求ができるか」が登記や第三者の状態により変わる点です。

取消し後の第三者には登記が必要
取消しが行われた後、元の所有者が物件を取り戻すには、登記(回復登記)を備えていないと第三者に対抗できません。これは二重譲渡と同様の構造とみなされるためです。

解除と登記の関係
解除の効果と原則
契約解除も原則として契約時にさかのぼって効力を失わせます(過去にさかのぼる効果)。したがって、当事者間では原状回復義務が生じます。
第三者との関係
契約の解除があっても、目的物が第三者に転売され、かつ登記がなされていた場合、売主は返還請求できません。
登記を備えた第三者は、解除の効力を受けないからです。
解除後の第三者も保護されるには登記が必要
解除後に転売された物件に関しては、二重譲渡の構造とみなされ、登記を持つ者が所有権を取得します。
取得時効と登記の可否
時効完成前の第三者には登記不要
取得時効の完成前に登場した第三者(例:途中で買主になった者)には、登記なしでも対抗できます。これは、その第三者がもとの所有者の立場を引き継ぐ関係(当事者的立場)にあるためです。
例:10年間占有中の6年目に売主AがCに売却し登記。完成後でもBはCに対抗できます(判例)。
時効完成後の第三者には登記が必要
完成後に登場した第三者には、登記がなければ時効取得を主張できません。
これは完成後の物権変動に関し、二重譲渡と同じ構造があるためです。

例題で理解を深めよう
問題1:次のうち、登記がなくても第三者に対抗できるものはどれか?
ア.遺産分割により不動産を単独取得した相続人
イ.相続放棄により単独相続人となった者
ウ.錯誤による取消しを行った売主
エ.時効完成後に登場した買主に対する時効取得者
正解:イ
問題2:強迫を理由に契約を取り消した場合、第三者に対抗できるのはどれか?
ア.善意無過失の第三者のみ
イ.善意でも対抗できない
ウ.悪意のみ対抗可能
エ.対抗できないが損害賠償請求は可能
正解:イ(強迫の場合は善意でも対抗可能)
まとめ
宅建試験で押さえておくべきポイントを整理します。
- 相続による取得は登記不要、遺産分割や遺贈は登記が必要
- 取消しの効果は理由により第三者への対抗可否が異なる
- 解除による返還請求は登記を持つ第三者には不可
- 取得時効では、完成前の第三者には登記不要、完成後には登記が必要
- 取消・解除後の第三者への対抗には回復登記が必要
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