抵当権の基本的な性質や登記について理解したら、次に重要なのが、宅建試験でも頻出となる「抵当権の特則」です。特に法定地上権の成立要件、一括競売、賃借権の対抗要件、代価弁済や抵当権消滅請求といった実務的な論点は、出題されると差がつきやすい難所でもあります。
この記事では、それらの制度を図式的に整理しつつ、例題も交えて丁寧に解説します。


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法定地上権とは?建物を残すために生まれる権利
法定地上権の意味
法定地上権とは、土地とその上の建物がもともと同一人の所有であったにもかかわらず、抵当権の実行により別人の所有となってしまった場合、建物所有者のために自動的に成立する地上権です。
借地契約を結ばなくても、そのまま土地の使用を継続できます。

成立要件
以下すべてを満たす必要があります:
1. 土地と建物が元々同一所有者に属していたこと
2. 土地・建物のいずれかまたは両方に抵当権が設定されていたこと
3. 抵当権の実行によって所有者が異なるに至ったこと
成立する例
- 土地のみに抵当権 → 土地が競売されて別人に
- 建物のみに抵当権 → 建物が競売されて別人に
- 土地・建物の双方に抵当権 → いずれかが別人に
成立しない例
- 更地時に抵当権設定 → 後に建物が建った場合(判例)
- 抵当権設定当時、土地と建物が異なる所有者だった場合

効果と内容
- 建物所有者は契約なしで地上権を取得
- 地代は協議で決定。決まらなければ裁判所が決定
- 地上権の期間や対抗要件は、民法や借地借家法に従う
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一括競売とは?土地と建物をまとめて競売できる制度
通常、抵当権の効力は「土地」または「建物」のみで、両方に及びません。しかし、以下のようなケースでは民法により一括競売が可能です。
例:更地に抵当権を設定→後に建物が建った
→ このような場合、抵当権者は建物を収去しなければならないが、それでは実行が難しい。そこで、土地と建物を一緒に競売することが認められます。
- あくまで任意制度なので、抵当権者が選択できます
- 優先弁済は土地の代価からのみ

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抵当不動産の賃貸借と抵当権者への対抗
抵当権設定「前」の賃借権
- 抵当権設定前に対抗要件を備えていれば、賃借権は抵当権者や買受人に対抗可能
- 土地の場合:建物の登記
- 建物の場合:引渡しまたは登記
抵当権設定「後」の賃借権
- 原則:対抗要件があっても抵当権者には対抗不可
- 例外: 「抵当権者の同意」+「同意の登記」+「賃借権の登記」 で対抗可能
建物賃借人の引渡猶予制度
- 抵当建物を使用している賃借人は、競売後6ヶ月間、引渡しを猶予される
- 使用対価を払う必要あり
- 支払いがなければ、買受人は即座に明渡し請求が可能

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代価弁済と抵当権の消滅
代価弁済とは?
抵当不動産を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じて代価を支払ったときに抵当権が消滅する制度です。
- 債務者ではなく、第三者(買主等)が弁済
- 支払金額が被担保債権に満たなくてもOK
- 不足分は無担保債権として残る
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抵当権消滅請求とは?第三者からの積極的な消滅請求
代価弁済が抵当権者の請求に基づくのに対し、抵当権消滅請求は第三取得者からの申し出により抵当権を消す制度です。
手続きの流れ
1. 買主(第三取得者)が書面で請求
2. 抵当権者は2ヶ月以内に競売申立てをしなければ、消滅請求を承諾したとみなされる
注意点
- 主たる債務者や保証人は利用不可
- 停止条件付きの取得者は、条件が確定するまで請求不可
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例題で実力チェック
例題1:次のうち、法定地上権が成立するのはどれか?
ア.更地に抵当権設定後、建物が建った後に競売
イ.土地と建物の所有者が別人で、建物に抵当権設定
ウ.土地と建物が同一所有者で、建物に抵当権設定
エ.建物共有者の一人が共有地に抵当権設定
正解:ウ
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例題2:次の賃貸借契約のうち、抵当権者に対抗できるものはどれか?
ア.抵当権設定後、賃貸借契約+引渡し
イ.抵当権設定前、引渡しなし
ウ.抵当権設定前、対抗要件あり
エ.抵当権設定後、借地借家法の要件のみ充足
正解:ウ
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例題3:抵当権消滅請求に関する記述で正しいものはどれか?
ア.主たる債務者も請求できる
イ.停止条件が未確定でも請求できる
ウ.競売申立てがあれば請求は拒絶される
エ.請求額が債権に満たないと請求できない
正解:ウ

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まとめ
今回の内容は、宅建試験でも毎年のように出題される重要テーマです。必ず以下のポイントを押さえましょう。
- 法定地上権の成立要件と成立・不成立の判例を整理
- 土地・建物の一括競売は任意制度
- 抵当権設定「前後」で賃借権の対抗要件が変わる
- 同意の登記+賃借権登記で対抗可能になる
- 代価弁済は請求に応じて、消滅請求は買主からの意思で可能