宅建試験では、基本的な抵当権の性質だけでなく、その応用的な知識も出題されます。特に「共同抵当」「抵当権の処分」「根抵当権」は頻出かつ差がつきやすい分野です。この記事では、それぞれのポイントを図解的に整理し、例題を交えてわかりやすく解説します。


共同抵当とは?複数の不動産に設定する抵当権
共同抵当の意味
共同抵当とは、同一の債権を担保するため、複数の不動産に抵当権を設定することをいいます。
たとえば、A銀行がBに対する1,000万円の貸付金を担保するために、B所有の甲土地・乙土地にそれぞれ抵当権を設定するケースです。これにより、A銀行はどちらの不動産でも、債務不履行時に抵当権を実行できます。

同時配当と異時配当の違い
同時配当
共同抵当の全不動産を一度に実行することを「同時配当」といいます。この場合、各不動産の価額に応じて被担保債権を按分して配当されます。
例:甲土地1,800万円、乙土地1,200万円の価値がある場合 → それぞれ60%・40%の割合で按分

異時配当
一部の不動産のみを実行する場合が「異時配当」です。この場合、被担保債権全額を実行した不動産から弁済可能です。
ただし、後順位抵当権者などの保護のため、配当を受け損ねた分については代位して他の不動産に抵当権を行使できます。

抵当権の処分とは?4つの重要な処分方法
抵当権の順位の変更
複数の抵当権者間で順位を変更する合意をすることができます。
- 設定者の承諾は不要
- 利害関係人(転抵当権者など)の承諾が必要
- 順位変更登記は「効力発生要件」
例:B・C・Dの3者が1〜3番の抵当権を持っていた場合、合意によりD→1番、B→2番、C→3番と変更可能

転抵当とは?
転抵当とは、抵当権自体を担保にして、さらに別の債権のために抵当権を設定することです。
- 設定者の承諾は不要
- 抵当権を「再利用」するイメージ
抵当権の譲渡・放棄(無担保債権者向け)
抵当権を無担保債権者に譲渡または放棄することで、配当の割当が変化します。
- 譲渡:譲受人が抵当権を実行して優先弁済を受ける
- 放棄:譲渡人・譲受人が債権額に応じて配当を受ける

抵当権の順位の譲渡・放棄(後順位者向け)
後順位の抵当権者に対して、順位そのものを譲渡または放棄することも可能です。
- 譲渡:受けた者が譲渡人の順位に「入れ替わる」
- 放棄:配当を債権額に応じて分ける
※いずれも、第三順位者や無担保債権者には影響を及ぼさない
根抵当権とは?繰り返し発生する債権を担保する制度
根抵当権の特徴
根抵当権とは、一定範囲に属する不特定の債権を、極度額の限度で担保する抵当権です。
例:銀行と企業の継続取引などに利用されます。
- 1件ごとの契約不要
- 元本確定までは債権が存在しなくても存続

被担保債権の範囲
- 設定契約で明確に定める必要があります(例:銀行取引、手形取引など)
- 範囲を超えた債権は担保されません

極度額とは?
- 優先弁済できる金額の上限を定めたもの
- 利息や損害賠償も含めて極度額内でのみ弁済請求可能
- 通常の抵当権のような「2年分制限」はありません
元本確定期日とその効果
- 契約時に元本確定期日を設定可(設定から5年以内)
- 設定がない場合:3年経過後、確定請求可能
- 確定前は随伴性がなく、債権譲渡しても根抵当権は移転しない
確定事由には、破産手続開始決定なども含まれます。
根抵当権の変更と制限
変更内容 | 元本確定前 | 元本確定後 | 利害関係人の承諾 |
---|---|---|---|
債権の範囲の変更 | 〇 | × | 不要 |
債務者の変更 | 〇 | × | 不要 |
極度額の変更 | 〇 | 〇 | 増額時は必要 |
元本確定期日の変更 | 〇 | × | 不要 |

例題で理解を深めよう
例題1:次のうち、共同抵当の「異時配当」に関する記述として正しいものはどれか?
ア.各不動産の価額に応じて按分して配当する
イ.一部の不動産から全額の弁済を受けることができる
ウ.債権額の範囲内でのみ配当を受けられる
エ.同時配当と異なり、他の抵当権者は影響を受けない
正解:イ
例題2:次のうち、根抵当権の「極度額」に関する記述として正しいものはどれか?
ア.極度額の定めは任意である
イ.極度額を超えた分も弁済を請求できる
ウ.利息や損害賠償は極度額に含まれない
エ.極度額を超えて優先弁済を受けることはできない
正解:エ

まとめ
この記事では、抵当権の発展的知識である共同抵当・抵当権の処分・根抵当権について詳しく解説しました。宅建試験対策として押さえておくべきポイントは以下の通りです。
- 共同抵当には「同時配当」と「異時配当」があり、配当方法が異なる
- 抵当権は、順位・内容・目的に応じて自由に処分できる(合意・登記が必要)
- 根抵当権は「不特定債権」「極度額」「元本確定」という独自要素がある
- 根抵当権は元本確定前は随伴性がなく、変更には制限あり
次回は「質権・留置権」や「債権譲渡と対抗要件」について解説予定です。図解資料や用語集が必要な場合はお気軽にお申し付けください。
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